名探偵の知性

こんにちは。穎才学院教務です。今日は哲学者で武道家の内田樹先生の言葉から。

アンテナの感度を上げて、情報を精査して、できるだけ多様な視座から、ものごとを観察し、吟味し、文脈を読み、適切な解を選択してください。「ラベルを貼って終わりにする」という思考停止的な態度は皆さんの知性の働きを危うくするだけです。というのが僕から若い市民たちへのメッセージです。
(内田樹先生のツイッターより)

知性の働きを活性化させて、先の見えない世の中を生き延びてください、というのが内田先生がみなさんに宛てて贈る願いです。

何かが起きたとき、「こうなるのとはわかっていた」という人がいます(実にたくさんいます)が、そういう言い方は信じてはいけません。

これから私たちの世の中がどうなるか、というのは、基本的に「見えない」ものなのです。「先が見えない」というのは、そういうことを言うのです。

でも、まれに、これから何が起きるのか、他のたくさんの人には見えないことが「何となく見える」人がいます。そういう人のことを「見る目がある人」と昔から言うのです。こういう人は、何かことが起きてからではなく、起きる前に「あのさ、そういうことをしていると、高い確率でこういうことが起きるから、やめておいた方がいいよ?」とか、「うーん、ああいうことをする人って、ほとんどの場合、嘘つきだから、気をつけなきゃダメだよ?」とか、周囲に適切なアドバイスを与えてくれます。そして、実際にそうなったときには、静かに穏やかにしているものです。

気をつけないといけないのは、何かことが起きてから「私はこのことを予想していた」と声高に主張し、自身の評価を高めようとする人です。こういうことをする人は、実際に先見の明があるかないかに関わらず、邪悪なので注意しましょう。

ロバート・ダウニー・Jrがホームズを、ジュード・ロウがワトソンを演じた映画『シャーロックホームズ』シリーズ(2009,2011 英米)では、この「先を見る」能力が頻繁に登場します。ロバート・ダウニー・Jrが演じるシャーロック・ホームズはその能力を他者の救済や事件の解決のために、ジャレッド・ハリスが演じるジェームズ・モリアーティー(モリアーティー教授)は同じ能力を自信の富と名声の増大のために使います。能力がある人は、その能力を他人のために使うべきです。いくら能力があっても、その力を自己評価を高めることばかりに使う人は邪な人です。ガイ・リッチー監督による『シャーロックホームズ』シリーズを見ると、そういうことがよくわかります。

ともあれ、先を見る力というのは、私たちが生きる上で有用な、でも身に付けることの難しい、高度な知性のひとつであるわけですが、もうひとつ私たちが生きる上で役立つ知性があります。

それは、既に起こった出来事の断片から、一編の筋の通った物語を作り上げるという能力です。

コナン・ドイルによる「シャーロック・ホームズ」も、アガサ・クリスティーによる「エルキュール・ポワロ」も、古今東西の名探偵はみんなこの能力を身に付けています。事件現場において、観察力の感度を高めてその状況を把握し、そこに「あるべきなのにないもの」や「あるはずがないのにあるもの」についての情報を脳内で高速スキャンします。事件に関わる人物の証言や立ち居振る舞いについても、そういったことを常に行い、探偵たちは、現場に残された微細な物証や、事件関係者のちょっとした言動から、「事件の全体像」について、ひとつの筋の通った話を構築するのです。

その構築が探偵の中で完了すると、何らかの定型サインが発信されるというのが、エンターテインメントとしての探偵物語のお約束ですね。「金田一少年の事件簿」シリーズなら、金田一一少年が「謎はすべて解けた」というキメゼリフを言うのです(笑)。あれは事件についてのひとつの筋の通ったお話が完成した、というサインなわけですね。

冒頭の内田先生の言葉にある「アンテナの感度を上げて、情報を精査して、できるだけ多様な視座から、ものごとを観察し、吟味し、文脈を読み、適切な解を選択」するという作業は、こういう名探偵の推理の仕方をよく似ているものです。内田先生はある文章で、学校は子供たちが「すぐれた探偵」になるための訓練を受ける場所だという比喩を用いて、子供の成熟と学校の関係について説明しました。

内田樹「いま、学校教育に求められているもの」による

このように探偵物語を手掛かりにして考えると、内田先生の言う「ラベルを貼って終わりにする」という思考停止的な態度というのがどのようなものであるのか、みなさんにもよくおわかりいただけると思います。

青山剛昌さんの『名探偵コナン』で言えば「小五郎のおっちゃん(毛利小五郎)」がそういう態度を身に帯びてしまった人の代表ですね。小五郎のおっちゃんは、もうおっちゃんだし(生活には困っていないようですし)、蘭ちゃんというよくできた娘さんに恵まれているし、離婚はしているけれど、素晴らしい知性を備えた元配偶者がなんじゃかんじゃ言って気にかけてくれるし、それに何より代理推理者としてのコナン君という最高の知恵袋を持っている。おっちゃんは結構めぐまれた環境で生きているのです。だから、身に備えているのが凡庸な知性でも問題ない。むしろ、それが彼のチャームポイントになっています。

でも、ふつうの若者たちには、コナン君のような知恵袋も蘭ちゃんのようなよくできた家族も、「米花町」という都内のどこかに探偵事務所を構えることができる経済力も、まず望めるものではありません。

じゃあ、どうするのか。若者たち自身が、トレーニングを積んで、名探偵になるのです。内田先生はそういうことを述べています。

そういう若者たちの成熟を支援するのが、私たち教育に関わる大人の務めだと思っています。今週も穎才学院は頑張ります!何か困ったことがあったら、お気軽にお問い合わせください。

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