『岩波国語辞典第八版』

こんにちは。なめこです。11月22日に岩波書店さんから『岩波国語辞典第八版』が発売されました。岩波国語辞典は辞書愛好家たちの間で「岩国」と略称される小型国語辞典です。うちには第六版と第七版が既にありますが、きよしは発売当日に、早速、第八版を買ってきました。

岩国は、第七版の序文で説明されている通り、新語・俗用に対してはかなり保守的な態度をとる小型国語辞典です。ただし、第五版(1994)で機械システムを「立ち上げる」という用例を取り上げるなど、今回の第八版でも「ディープラーニング」「スムージー」といった見出し語を新録するなど、語の採録などにあたって「明治の後半ぐらいからを念頭に置く」という従来の編集方針を守りながら、時代や社会の変化に合わせた改訂を行っています。

今回、『岩波国語辞典第八版』には第八版の序文だけでなく、初版から第七版までの序文が併せて載せられています。辞書の序文を読む人がどの程度いるのか、ぼくは詳しく知りません。しかし、ぼくもきよしも岩国の序文を味わいながら読みました。

各国語辞典には編集の方針があります。

国語辞典なんて、そんなに何種類も要らないという考えもあるかも知れません。わざわざ新版の国語辞典を買い求める必要など無いという意見もあるでしょう。あっても構わないと思います。

ただし、それと違う考えもあります。

『言海』という辞書があります。最初の近代的国語辞書と言われています。大槻文彦という国語学者が自費刊行しました。

自費刊行です。

当初、『言海』の編纂は文部省主導で始まりました。1886年、その編纂はひとまずの完成を見ますが、文部省からは出版されず、その2年後に原稿が大槻に下げ渡されます。大槻先生は結局『言海』を自費で出版することとなり、最終校正のさなかに妻子を亡くす不幸に見舞われながら、1889年から1891年にかけ4分冊として刊行するに至ります。

実は1000回も重刷された、すごい辞書なんです。

夏目漱石や芥川龍之介など、文豪と『言海』の関係を物語るエピソードも少なくありません。

北原白秋については、言葉の学習のためなのでしょう、『言海』のあるページ両面に載っている内容を覚えたら、その紙を食べたという逸話が語られるほどです。もっとも、白秋は実際に辞書を食べたのではなく、覚えるたびに辞書の紙を破って棄てていたのだという話もあるようなのですが。

上に載せたのは『四次元ことばブログ』という辞書に関するブログの執筆をつづけている「ながさわ」さんによる国語辞書路線図です。

それを見ると『言海』という辞書から、様々な国語辞書の編纂が始まったのがわかります。

今回きよしが買ってきた岩波国語辞典は、そこで「小型ライン」にのっていて、そこから明解線に乗り換えて「広辞林」を経由して辞林線に乗ると、ようやく『言海』までたどり着くことができるのです。

何だか、遠いところにありますね。

ぼくは「明解」という国語辞書についてても「広辞林」という国語辞書についても、ほとんど知りません。

きよしにたずねると、「明解」とは見坊豪紀という人が編者として世に出した『明解国語辞典』のことだそうです。見坊先生のお名前はぼくも知っています。ぼくもよく利用する『三省堂国語辞典』の編者として有名な先生です。

ながさわさんのブログによれば「広辞林」は「大辞林」以前の中型国語辞書のようですね。

ぼくは辞書についてもっと勉強しようと思います。それにはいくつかの理由がありますが、それらのひとつはぼくが各辞書について言葉に対する人々の敬意のようなものを感じ取るからだと思います。

きよしが買ってきた『岩波国語辞典第八版』の帯には

「日本語を丁寧に使いたい」

という文がついています。

丁寧という語を『岩波国語辞典第八版』で調べると

①動作・態度などがぞんざいでなく礼儀正しいこと
②仕事のやり方が雑でなく、念入りなこと

という語釈がつけられています。

おそらく「日本語を丁寧に使う」というのは、日本語の取り扱いが乱暴でない、なげやりでないということでしょう。あるいはその使い方において細かい注意が行き届いているということだと思います。

日本語に限らず、言葉の取り扱いにおいて私たちは個人的自由を有していると思います。しかしながら、言葉は社会的なものでもあります。また私たちの意識や理解に先立つものでもあります。

ぼくは穏やかな社会的生活の無いところに個人的自由の立ち上げは難しいと考えています。またぼくは他の人の意識や理解もぼく自身の意識や理解も大切にしたいと考えています。

そういったことと言葉の丁寧な取り扱いとは関係があるようにぼくには思えてなりません。

きよしも概ねでそれと同様の考え方をしえいるようです。

しばらくの間、ぼくたちは交互に『岩波国語辞典第八版』をひいたり読んだりすることでしょう。『岩波国語辞典第八版』は既にぼくたちが有している他の辞書たちと併せて、ぼくたちの言語的生活を支えることになると思います。ありがたいことですね。

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