アメリカンコーヒーとミックスサンド

こんにちは。なめこです。とても大きな台風が日本を襲いました。たくさんの人たちが被害を受けました。幸いぼくときよしは無事ですが、ぼくときよしの友達の中には台風で家を失ったり、仲間が行方不明になってしまったりした動物たちがいます。そんなときにぼくたちが友達のためにできることは少ないのですが確実にあるはずです。できる仕方で友達を支えていかなくてはなりません。この戦いは少し長くなりそうです。みなさんの中にもそういった困難な戦いの最中にいる人たちがいらっしゃるかも知れません。長い戦いは辛く、徐々に私たちは倦むようになります。戦いの長さや辛さの総量が変わることはありませんが、できることからコツコツと仕事を積み上げていきましょう。また不要な仕方で私たちを苛む人たちからは距離を取るようにしましょう。そういったことがこの戦いには重要だと思います。

さて、ここからは不要な仕方でぼくたちを苛む人についての話です。

丁度去年の今ごろ、秋が深まり始めたころのことでした。

ぼくはお家の近くで小さなお店を営んでいます。そこにはぼくが好きな本とやはりぼくが気に入ったお茶やコーヒーが取り揃えられていて、お店にやってきた人たちにお茶やコーヒーを飲んでもらいながら、本を読んだり、お話をしたり、思い思いの時間を過ごしてもらうようにしています。ときどきサンドイッチやスパゲッティのような簡単な食べ物を出すこともあります。小さいのですが、ぼくのお気に入りのお店です。お店を訪れるお客さんにも恵まれて、ぼくはそのお店でそこそこ忙しく、そして気分よく働いているのです。

去年の今ごろ、ぼくのお店をよく訪ねる鳥さんがいました。その鳥さんはお店にくると、お茶かコーヒーを飲みながら、ぼくとお話をしていました。お茶のいれ方やコーヒー豆の選び方、サンドイッチのつくり方のコツ、スパゲッティのソースのレシピ、そういったことを鳥さんはぼくにたずねるので、ぼくはひとつひとつそれに答えていたのです。ぼくは鳥さんに本を貸しました。鳥さんがおすすめの本をぼくにたずねたからです。また鳥さんはお店に来る他のお客さんともなじみの仲になっていました。鳥さんは魅力的な様子で話すので、そういったお友達ができるのも自然なことだろうとぼくには思えました。

さて、そういったことがしばらく続いて、その鳥さんはある時からぼくのお店に姿を見せなくなりました。どうしたのかしらと少し心配しながら、ぼくはお店の仕事を続けていたのですが、その後でその鳥さんがお店を開いたのだという話を聴きました。お店の常連でぼくのお友達でもあるイタチくんがぼくに教えてくれました。

鳥さんがお店を開くのは別に何も構わないのですが、イタチくんによれば、鳥さんがお店でしている飲み物や食べ物の出し方はぼくがお店でしているのと酷似しているのだそうです。イタチくん、鳥さんのお店を何度かのぞいたようですね。正直それでもぼくは特別に構わないのですが、ぼくが驚いたのは鳥さんがぼくのお店の悪口を新しいお店で言っているようだという風の噂でした。フェレットくんやハクビシンくんなど、何人かのぼくのお友達の話を総合すると、鳥さんはぼくのお店で仲良くなったお客さんの何割かを自身のお店に誘っていたようです。そういったお客さんたちと鳥さんがぼくのお店の悪口を言っていると聞くのですから、決して良い気はしません。

ぼくは憂鬱でした。

何か鳥さんに悪いことをしたのかな。お客さんたちへの飲み物や食べ物の出し方が悪かったのかな。

そんなことをついつい考えてしまうようになりました。

決して調子が良い状態ではないのを自覚していた記憶があります。

あれから一年が経ちました。

ぼくのお店は相変わらずです。お店の仕事はそこそこ忙しく、ぼくはそこで気分よく働けています。

しかし、一年の時間を経て、ぼくはようやく気づけたのでした。

ぼくは鳥さんのしたことを通して随分と傷ついてしまっていたのです。夜にご飯を食べる量が増えてしまったり、なかなかぐっすりと眠れなかったり、ぼくは仕事以外の生活のリズムを崩し、確実に苦しんでいました。そのことをぼくはあまり自覚していなかったのですが、同棲しているきよしは随分と気にしてくれていたようです。たくさん心配をかけてしまったのだと思います。ごめんね、きよし。

ぼくが自分自身の傷つきを確かめるきっかけになったのは、やはりお友達でもありぼくのお店の常連でもあるハリネズミくんとのお話でした。

ハリネズミくんは月曜日と水曜日と金曜日、いつも決まった時間にぼくのお店にやってきてアメリカンとミックスサンドを頼みます。こしかけるのはお店のカウンターの真ん中、ちょうど仕事をしているぼくの目の前です。ハリネズミくんはそこで時間をかけてミックスサンドを食べ切り、アメリカンコーヒーを一度おかわりしてから、ゆっくりとお家に帰っていきます。

ちょうどこの前のことです、ハリネズミくんが2杯目のアメリカンコーヒーを飲み終えてから、ぼくを見上げて言いました。

「うん、やっと元通りのアメリカンになったね」

ぼくは虚を突かれました。ぼくのいれるアメリカンの味が変わっていたとハリネズミくんは言うのです。

ハリネズミくんによれば、一年前、鳥さんとの一件があってから、ぼくのいれるアメリカンコーヒーもぼくが作るミックスサンドも味や出来が変わってしまったのだそうです。具体的にはコーヒーの香りや味わいに違いが出てしまったり、ミックスサンドのお皿の上でのシャキッとした立ち上がりやソースの味わいにズレや狂いが出てしまったりしていたのだとハリネズミくんは言います。

おおう、私生活だけでなく、仕事にも変化が出ていたのですね。

ハリネズミくん曰く、あの出来事があってから、ぼくの作るミックスサンドの出来がもとに戻るまで半年くらいの時間がかかり、ぼくがいれるアメリカンの味が元通りになるまでそこからさらに同じくらいの時間がかかったのだそうです。

おおう(´・ω・`)

ちっとも気づかなかったよ、ハリネズミくん。ごめんねえ。

お友達とはいえハリネズミくんはお客さんなので、コーヒーやサンドイッチの出来が悪かったのをぼくはあやまりました。ハリネズミくんは良いんだよと言っていました。

今日もハリネズミくんはぼくのお店で食後のアメリカンコーヒーを飲んでいます。その様子を見ながら、ぼくは何だか心が温まるのを感じています。

あの鳥さんとぼくの出来事について、ぼくはようやく客観視できるようになったようです。鳥さんが悪いのではなく、ぼくが悪いのでもなく、ぼくにとって鳥さんのしたことが過酷に感じられただけなのだと思います。鳥さんがぼくのお店でどんなことを考えたり感じたりしていのか、鳥さんがどのようなお店をどこで営むのか、そういったことはぼくにはもはやどうでも良いことです。ただし、ぼくが大事にしているお店でぼくが大事にしているものごとと鳥さんをめぐって起こった出来事がぼくを酷く気づつけただけなのだと思います。

鳥さんに貸した本はまだぼくのもとに返ってきません。たぶん二度と返ってこないのだろうと思います。

失われたものは二度と返ってこないかも知れませんし、損なわれた何かを元通りにするのには長い時間がかかるかも知れません。

ただし、ぼくには苦しんでいる時に側にいてくれる身近な仲間がいますし、ぼくに関して損なわれたものが元通りになるまで粘り強く待ってくれる友達がいます。

そういったことに気がつけるようになったということは、ぼくが復調したということなのだと思います。

不意にぼくたちは大切なものを失ったり、身に備わっていたものを損なったりすることがあるものです。

そういったことは本当に不意に起こるものなので、そういったことに出くわすとどうしてもぼくたちは動揺してしまうのですが、充分に注意する必要があります。

そしてそういった喪失や損失を経た後に穏やかな生活を取り戻すには長い時間がかかります。うっかりすると、その途中で疲れ果てて、元のような状態に戻れなくなってしまうかも知れません。

そういう長くて辛い仕事を続けるのに、私たちは何らかの心身の拠り所を必要とするでしょう。ぼくにはきよしやハリネズミくんのような仲間やぼくのお店がそれに当たりました。そういった心と身体の拠り所がなかったら、ぼくは今のように穏やかな生活を取り戻すことができなかったかも知れないと思います。

この1年でぼくはそういったことを身をもって学びました。

ですから、仲間たちが困難で辛い状態にあったら、できるだけそれをサポートしようと思います。そういう仕事が世の中には要るのです。

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