猫さんのクラムチャウダー

こんにちは。なめこです。

今日はきよしとスープの話。

きよしはスープが好きです。よくお家でスープを飲みながら、食事パンをもしゃもしゃと食べています。

僕から見て、実に美味しそうにスープを味わうのですが、きよしにはスープにまつわる大切な思い出があったようです。昨日の夜、お家で、その話を聴くことができました。

きよしが猫の街で音楽のお勉強をしていたときのことです。きよしはパンダのパペットです。そのころ、心無い一部の人間がパペットを使ってたくさんの猫たちを虐めるというできごとが多くありました。やがて、そういった人間は払底しましたが、そういったことがあった後、猫の国に音楽留学をしたパペットのきよしは、猫たちに忌み嫌われることがあったそうです。

当初、きよしは音楽の学校から紹介されたホストファミリーのところで留学生として下宿生活をするはずでしたが、そのホストファミリーの猫は留学生がパペットであることを知ると、険しい顔で、きよしを追い払いました。「君がどういったパペットか、ぼくたちは知らない、でも、ぼくたちとパペットの間にああいったことがあった以上、ぼくはこの家の中にパペットを入れたくないんだ」、猫はそういって、きよしの下宿を断ったのです。

仕方がありません。きよしは猫の街で、安宿を見つけ、そこに逗留することにしました。そのため、当初の予定よりも、余計なお金がかかってしまったのです。音楽学校で学ぶためのお金を削るわけにはいきません。きよしは、遊ぶお金を削りました。音楽学校の友人たちが楽しそうに夜のパーティーに繰り出していっても、きよしはそれに加わることができません。

食事もできるだけ質素なものにしました。

いつも、音楽学校に行っているときは、学校の食堂で定食を食べます。学校の食堂のメニューは、値段も安く、栄養のバランスも整っていたからです。

週に一度、金曜日に音楽学校の外で先生のレッスンを受けるときには、レッスンの後、先生の自宅の側にある小さなレストランで食事を取っていたそうです。

そのレストランは三毛猫の奥さんと娘さんが営む、小さな猫のレストランでした。10席ほどの座席があるだけで、店構えも店内の調度もごくごく素朴なものでしたが、でてくる料理には手間と工夫が凝らされていて、とても美味しく感じられたので、きよしは週に一度だけ、そのレストランでちょっとだけ贅沢な食事をしようと決めていたのでした。

きよしはいつも、そこでスープとパスタをたのみます。

でも、学校から毎月のあたまに奨学金を受け取っていたきよしは、月末の時期になると、手持ちのお金が心細くなり、4回目や5回目の金曜日には、どうしてもお店のメニューで一番安いオムレツしか、たのめなくなってしまうのでした。

ある月の4回目の金曜日に、きよしがオムレツをたのむと、三毛猫の娘さんがオムレツといっしょにバケットを一つ持ってきました。きよしは、いぶかしく思いましたが、オムレツに加えてバケットを食べるだけのお金はありました。そのオムレツとバケットを美味しくいただいて、人心地がつき、お会計を済ませようとすると、娘さんはオムレツの代金だけを請求します。きよしは、娘さんがバケットの追加について忘れているのかなと思い、「ぼくはバケットも食べました」と申し出ました。すると、娘さんはきよしにウィンクで目配せをして、他のお客さんたちにわからないように、バケットの代金は受け取らなかったのでした。

きよしは、何だかありがい気持ちがして、伏し目がちにお礼を言って、お店を出たのでした。

また、別の日のことです。

その日は冬のとても寒い、その月5回目の金曜日でした。

そのときのきよしは音楽の勉強で壁にぶちあたっていました。練習が上手くはかどらず、その日のレッスンでは先生にそのことを厳しく指摘されてしまいました。先生の言っていることは、もっともです。きよしは自分の力の無さを情けなく思いました。とてもやりきれない気持ちです。でも、そういうときだってお腹は空くんですね。

きよしはいつもの猫のレストランの前にやってきました。今日は、普段に増して、お金がありません。オムレツを注文することもできないくらいです。

でも、寒くて仕方がなかったので、きよしはレストランの中に入りました。

「今日は胃が痛むんだ」などと余計なことを言って、きよしは温かい紅茶だけを注文しました。

娘さんが紅茶を運んでくれます。何か、猫の言葉で話しかけられたようですが、きよしには上手く聴き取れません。疲れすぎていたのかもしれませんね。きよしは「大丈夫です」とだけ答えて、紅茶に両手をのばしました。

とても、あたたかい。

少しだけ、自分の荒んだ心が穏やかになるように感じました。じんわりと身体全体が温まるような気がしました。

きよしは紅茶を口にします。

ほっとしました。

それと同時に、お腹がとても空いて、なんだか情けなくなってきました。

おいしいオムレツが食べたいなあ。

きよしがそんなことを考えていたときです。

三毛猫の奥さんが、大きなボウルに入ったクラムチャウダーをきよしの机に持ってきました。

「お客さんの注文を間違えてしまって…。料理が無駄になるといけないので、よかったら、めしあがってくださいませんか」

奥さんはそのように言うのです。でも、10席くらいしか席がないのですから、本当に注文をまちがえるとは思いません。

きよしは、椅子に座ったまま、三毛猫の奥さんを見上げました。チャウダーの湯気でくもって見えたのでしょうか、きよしには奥さんの姿がぼんやりとしか見えません。

ハッとしたきよしは、小さなお礼を言って、おくさんの好意をありがたくいただきました。

大きなボウルに入ったクラムチャウダー、とても美味しく感じられたそうですよ。

涙が何度かスプーンの上に落ちて、ちょっとスープがしょっぱくなってしまったそうです。

それ以来、きよしは困った動物たちにとても親切です。

自分が困ったときの、あの差し出されたクラムチャウダーのことを思い出すからでしょうね。

ぼくは、きよしがケガをした動物たちに手を差しのべたり、困った動物と美味しいごはんや飲み物を共にしながら、何事か相談をしているのを何度か見ています。

きよしはそういったことをするときに、動物たちに丁寧な仕方で接することを忘れません。動物たちがきよしの好意を理解しないことも、ままあるようです。それでもきよしは動物たちをうらみません。

協力をするというのは、そのときに働く損得の勘定をするということではなくて、無条件にその相手を尊重することだと思います。

ぼくはそういった考え方をするきよしのことが好きです。

今日、お仕事帰りにぼくたちは、いきつけのレストランで待ち合わせをしています。

そこで、きよしはお気に入りのクラムチャウダーを食べるのです。

ぼくはひき肉のカレーを注文しようと思います。

そうして、夜が更けていくのです。

※今日、ふとしたきっかけで、今道友信先生の「温かいスープ」を読みました。授業中に読んだのですが、私の感情に強くうったえるものがありました。何度も読んだ文章のはずなのに、ずいぶんとたくさんの発見がありました。

「国際性、国際性とやかましく言われているが、その基本は流れるような外国語の能力やきらびやかな学芸の才気や事業のスケールの大きさなのではない。それは、相手の立場を思いやる優しさ、お互いが人類の仲間であるという自覚なのである。」

先生は「求めるところのない隣人愛」という言葉を用いられました。その通りだと思います。スープを差し出すレストランでのことだけではありません。どこでだって、私たちは見返りを求めることのない敬意や愛情を他者に示すことができるはずです。そういったことが大切であると、改めて教えられました。

今道先生の文章に敬意を表します。今、私が書けるもっとも自然な文体で、それをリフレインしてみようと思いました。ありがとうございます。

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