2019年 東京大学生物 解答解説

第1問

(解答)

A  誘導
B  (1), (5)
C  1-⑤、2-⑩、3-⑨、4-⑩、5-③
D  Xタンパク質はYタンパク質を受容することで活性化するが、Yタンパク質をもつ隣接細胞が存在しなくなることでXタンパク質が活性化しなくなるため、C細胞に分化する。


E  P2, P3, P4
F  (2)
G  (1)
H  E細胞からZタンパク質が分泌され、P3細胞のWタンパク質を活性化する。するとP3細胞ではYタンパク質が増加し、P3細胞は穴細胞に分化する。P3細胞に隣接しているP2,P4細胞ではYタンパク質が減少し、Xタンパク質が増加する。これによりP2、P4細胞は壁細胞に分化する。P1,P5細胞は上記のような誘導を受けず、表皮細胞に分化する。

 

(解説)

Ⅰ(標準)

発生の問題かと思いきや、教科書的な知識はほとんど要求されなかった。

A  サービス問題。

B  細胞A,Bがもつ遺伝子Xの変異が、Aの分化に及ぼす影響を整理しよう。

A\B (-) (+) (++)
(-) C C
(+) D C,D
(++) D

Bの分化は、上の表のABを入れ替えて考えればよい。つまりAとBは対称である。

AがX(―)を持つ場合に注目すると、Bの遺伝子型によって分化の仕方が異なる。AとBは対称なので。相互に誘導しながら分化が決定されているといえる。((1)が正解、(2)(3)は不正解)

また、上の表から考えれば(5)が正解で、(4)(6)が誤りであることも分かる。このように、実験結果を自分なりに整理することが重要である。

C  図1-3から、タンパク質X,Yの量の変動が真逆であることが読み取れればOK。

D  図1-4などから、タンパク質X,Yの結合・Xタンパク質の活性化が細胞分化に関与していることを読み取ろう。例えばX細胞が活性化すればD細胞に分化する。

 

Ⅱ(やや難)

表の煩雑さに息切れした受験生も多かったかもしれない。時間を浪費せず、解けそうな問題から手を付けよう。

E  注目したいのはP1~P5の細胞がP3を中心に左右対称なことである(図1-5から判断できる。つまり答えも左右対称になるはず)。また、正常な発生過程におけるE細胞の働きをみたいのだから、表1-1の(a)(b)を比べさえすればよい(E細胞の有無)。

F  遺伝子Xの働きを知りたいときに変異体X(―)を調べるのが遺伝学の基本である(というか、遺伝学そのものである)。表1-1で、(a)(d)を見比べよう。

G  分かっていることは「ZがWを活性化する」「YがXを活性化する」「X・Yの活性により細胞分化が制御される」。知りたいことは「WはどこでYを活性化/不活性化するのか」である。時間の許す限り可能性を考えて、矛盾のないシステムを求めてほしい。詳しくはHの解答を参照。

H  長い記述問題の時は、①接続詞の活用、②主語の明示、③主語と述語を近づける、の3点を意識しよう。多少稚拙な文でも構わないので、事実関係が誤解なく伝わるように答案を組み立てよう。

 

第2問

(解答)


A  1−ATP,2-NADPH
B  ア−(6),イ−(4)
C  ウ−(6),エ−(7)
D  陰葉は陽葉に比べて質量当たりの葉面積が大きいため、表面から水分が失われやすい。その際気孔が閉じることで葉内部への二酸化炭素の供給が低下するため、最大光合成速度が低下する。よって、乾燥・強光の条件下では、陰葉の質量当たりの光合成速度は陽葉よりも低下すると考えられる。

 


E  (3)
F  (1),(3)
G  3−クロロフィル,4−水
H  D1タンパク質の立体構造が変化したため。
I  (2),(4)
J  D1タンパク質は損傷を受けると、V遺伝子から発現した酵素によって分解される。その後、新しくD1タンパク質が合成されることで光化学系Ⅱの能力が復活する。

 

(解説)

I(やや難)

光-光合成曲線と陽葉・陰葉の関係を問う問題。教科書的な知識よりも、むしろリード文及び設問文中のヒントが重要であった。これを活用できないと解答に詰まってしまうだろう。

A  サービス問題。大問に1つはこのような知識問題があるので、確実に得点しよう。

B ア   最大光合成速度が小さくなるのだから、(4)(6)(8)(9)に絞られる。リード文第3段落から「酵素が不十分⇒最大光合成速度の減少+呼吸速度の減少」が読み取れれば、(6)が選べる。光強度のゼロ点や補償点が一致するはずはないので、(4)(8)(9)は除外できるはず。

イ   アと同じく(4)(6)(8)(9)に絞られる。リード文第3段落からは、「二酸化炭素の供給不足⇒呼吸速度の減少」は読みとれない。よって、最大光合成速度の減少のみがみられる(4)が選べる。

C ウ   陰葉の面積当たりの質量は陽葉の半分であるから、同じ面積で比べれば酵素の量が半分になっていると考えられる。よってBアと同様に考えて(6)が選べる。

エ   陰葉の面積当たりの質量は陽葉の半分であるから、同じ質量で比べれば酵素の量は等しく、最大光合成速度も等しくなると考えられる。さらに、陰葉の面積は陽葉の2倍と考えられるため、2倍の光量を利用できることから、(7)が選べる。

D  「どのような環境だろうか」と問われたとき、やみくもに妄想するのではなく、まず設問文を見直そう。設問文の但し書きに「葉から失われる水の量は葉面積に比例」とある。さらにリード文第5段落に目を移すと、「水の供給不足⇒気孔が閉じる⇒二酸化炭素の供給不足」の流れが読み取れるので、この内容から解答を組み立てることができる。最大光合成速度に言及することになるので、強光条件についても触れられると良いだろう。

 

Ⅱ(やや易)

光化学系の損傷に関する問題。知識問題が若干難しかった分、実験考察問題はいたって平易であった。Ⅰとの関連もないため独立して解くことができた。

E   フィトクロムは赤色光と遠赤色光の受容により発芽を制御する分子である。ロドプシンは脊椎動物の視物質、クリプトクロムは植物の花芽形成や概日リズムにかかわる受容体、フォトトロピンは光屈性や気孔開閉に関わる受容体であり、いずれも青色光を受容する。

F   Eの解説を参照。光発芽はフィトクロムの赤色光受容による。

G   サービス問題。間違えてはいけない。

H   「D1タンパク質の量は変わらない」とあるので、D1タンパク質の質=立体構造の変化を思いつきたい。リード文第2段落にも「高温や極端なpHにさらされたときのような変化」という記述があるので、タンパク質の変性が連想できる。

I   リード文第4段落に「正常型のV遺伝子からは損傷を受けたD1タンパク質を分解する酵素が発現する」とあるので、変異体VではD1タンパク質が損傷を受けても分解されず、量が変化しないと考えられる。さらに、実験ではタンパク質合成阻害剤を加えているため、正常型でのD1タンパク質の再合成は抑えられる。以上から(2)(4)が選べる。

J   Iで考えた通り、正常型では損傷を受けたD1タンパク質は、遺伝子Vから発現した分解酵素によって分解される。続いてD1タンパク質が再合成されることで、光化学系Ⅱの能力が復活する(図2-2、図2-4)。植物に限らずあらゆる生物において、品質が劣化したタンパク質の分解機構があることは知っておこう。

 

 

第3問

(解答)


A   環境変異、遺伝的変異
B   (2)
C   (1)
D   春型、夏型の表現型が決定される各々の特定の時期において、温度や湿度、日長などの環境条件が大きく異なるため、チョウの表現型可塑性が連続的であっても実際の表現型は不連続な多型を示す。

E   チョウの幼虫を、温度など特定の環境条件を細かく段階的に変化させて飼育し、表現型が条件に応じて段階的に変化することを示す。

 


F   (1)
G   世代を経るにつれて、黒色選択群では熱処理を受けても緑色化がほとんど起こらない個体の割合が増加するのに対して、緑色選択群では閾値以上の温度による熱処理を受けると緑色化が起きる個体の割合が増加する。
H   (2)
I   (3), (5)

 

(解説)

Ⅰ(標準)

ミジンコ・チョウの表現型可塑性に関する出題であった。実験計画を立案させるEでそれなりの答案を作成できるかどうかが分かれ目となるだろう。

A   基本的な単語の問題である。進化・分類など教科書の末尾の範囲は盲点になりやすいが、太字になっている重要単語はミスなく答えられるようにしよう。

B   ダーウィニズム=自然選択説と考えて差し支えない。

C   カイロモンの濃度の変化はあくまで実験室での操作によることに注意しよう。つまり、この実験から湖の環境(=捕食者の数)について有力な情報を得るのは難しい。つまり、選択肢(2)(3)が排除できる。この実験で調べたのはカイロモンに対するミジンコの応答の違いである。

D   チョウの環境応答は閾値を持たない連続的なものであるのに、実際の表現型は春型・夏型の2つにはっきり分かれてしまう理由を考えればよい。チョウが育つのが1年のうちの特定の時期に定まっているため、見かけ上2つの表現型しか観測されないのである。傍線部の言い換えに終始しないよう、環境条件を具体化して(温度、湿度など)書くとよい。

E   Dで考えた通り、チョウの表現型多型は環境条件が2パターンしかないことに由来するので、環境条件を細かく変化させて実験を行えばよい。実験計画を答える問題では、具体的な実験手順と予想される結果を書くようにしよう。

 

Ⅱ(標準)

ショウジョウバエの表現型可塑性を題材にした問題である。2つのホルモンの作用機序を見抜くことができればさほど時間はかからない。

F   選択実験は自然選択を人為的に行っているに過ぎないので、世代を経て遺伝子頻度の変化が起こっているはずである。また、リード文中にある通り、物質Xが直接的に遺伝子を変化させることはない。以上のことから、中胸が倍加した個体を選択したことにより、物質Xに応答して中胸の倍化を引き起こす遺伝子の頻度が増加したと考えられる。

G   基本的には図3-4(a)のグラフについて正確に記述すればよい。(b)については見落としがちであるが、Ⅰで考えた表現型可塑性の連続・不連続に注目すれば、熱処理に対する応答に閾値が存在することに気づくはずである。そもそも(b)の内容を使わなければ解答を3行埋めるのは困難である。「字数・行数もヒントである」という意識を持ちたい。

H   緑色選択群の頸部を結紮すると緑色化が起きなくなった(黒色のまま)ことから、頭部から分泌されるホルモンαが関与していることは明らかであるので、(2)が選べる。(さらに言ってしまえば、実験3でホルモンαの効果を検証していることからも明らかである。無意味な実験は出題されない。)

I   リード文中での実験3についての記述は極めて簡素であり、「緑色選択群に熱処理を加える⇒ホルモンα濃度上昇」「ホルモンβ濃度は熱処理と無関係」の2点を把握していればよい。これに矛盾しないのは(3)(5)のみである。